* - Story - *




遠くで船の上の
ほら貝の音色が響きます。

暗い夜が明け、
朝焼けと共に、町の明かりが消えゆき、
朝日が昇ってゆきます。

一瞬、
街は一面が鮮やかなオレンジに照らされ、
そして、爽やかなな青空と青い海の色へ
徐々に変わります。

今日も、
ラ・フィルレの忙しい一日が始まりました。


カシャシャシャシャ

ガチャッガチャッ・・・


ミルフェは今日も朝から
お菓子作りに精を出します。

薪をくべたオーブンの中へ、
醗酵させて形を整えた生地を入れ、

出来上がった生地を
綺麗にデコレーションしてゆきます。

『おいしくなーれ』

ミルフェは、声に出さずとも、
そう言っているように見えます。

とびっきり、
美味しくなるように、と願いを込めて。

そして、
お菓子が店に並ぶ頃、『ラ・フィルレ』に
一人の青年が、訪ねて来ました・・・。


・・・・・・・・・・・


「ありがとうございましたー!」

カランカラーン

「ふう。もうお昼過ぎかぁ」

「くうーん」

ぐるるるる(腹の鳴る音

「・・・・・」

「・・・・・」

「あはは〜鳴っちゃった・・・プディ、ごはんにしようか?」

「わんっ」

カランカラーン

「あ、いらっしゃいま」

ガシャーン!!!(転んだ音)

「!?・・・あいた・・・たた」

「だ、大丈夫ですか?」

「あ、うん、大丈夫・・・君は」

「え?」

(外から聞こえてくる声)

「(ハッと気づいた顔をして)
ごめん、すまないけどかくまってくれ!見つかると連れ戻される」

「え、え、え?
 見つかるって、何かに追われてるんですか?どうして」

「あ、ご、ごめん。
 決して悪いことをしたからじゃないよ、
 ただ・・・、今連れ戻されるわけにはいかないんだ」

「どうしても、ですか?」

「ああ、だから、その
 ごめん!
 どこかに隠れられる場所はないかな?」

「え、は、はい。
カウンターの奥にどうぞ」

「有難う、助かる・・・!」


(外)

「お前たちは向こうを探せ!」

(外が静まるのを待ち)


「・・・・・・」

「・・・・・・・」

「行ったみたいだな」

「ですね」

「(胸を撫で降ろし)良かった、あ、ごめん。
 いきなり、無礼を働いてしまって。
 僕はルト。少し観光ついでに街を巡っていたんだ」

「旅行者の方なんですか?
通りで、この辺りで見かけない格好してると思った」

「アハハ、そう。旅行者なんだ。
ちょっとした旅の帰りでね。
どうにも美味しそうな香りがしたから立ち寄ったんだ」

「そうなんですか」

「ところで、この店のお菓子は凄く美味しそうなんだけど、
パティシエは何処にいるのかな?」

「あ、ここにいます」

「ここに、って 君が?」

「はい」

「じゃあ、店主はどちらに」

「わたしです」

「ええ!?・・・本当かい?」

「はい、わたし、ミルフェっていって、
 ここの店主兼パティシエをしているんです」

「そうなんだ。そうか。うん。
 だとしたらきっと、僕の思い違いなのかもしれない」

「・・・思い違いって?」

「ああ、いや、気にしないで。
少しこの匂い似たお菓子を食べたことがあって、
ただそれだけのことだから」

「似た匂い、ですか」

「うん。気分を悪くしたのならすまないね」

「い、いいえ。そうじゃないんですけど、
どんなお菓子だったんですか?」


「どんな、といっても、普通のショートケーキなんだ、イチゴが沢山入った。
小さい時に一度食べたきりなんだけども。少し隠し味みたいなのが入ってて」

「ショートケーキ、ですか」

「・・・笑わないかい?」

「笑わないです」

「大分前の事になるんだけど・・・(ハっとした顔」

カランカラーン

「見つけた、この店に怪しい人影が見えたかと思えば。
 こんなところに隠れるだなんて往生際が悪いですよ!!」


「ああ・・・面倒なのが来た」

「面倒とはなんです、失敬な!戻りますよ、早く行かねば日が暮れてしまう」

「あ、あのー・・・」

「なんだ、店員。お代なら無いぞ。一目この方を拝めただけでも有難く思え」

「そ、そうじゃないけれど、まだ話の途中で」

「話だと?」

「そうだよモンド。僕はまだここのお菓子を食べていないし」

「そんなもの食べている時間など御座いませんでしょう。
ただでさえ手違いの遅馬で遅れているというのに。行きますよ」

「嫌だ」

「嫌ですって?好きだの嫌いだので済むのならこのモンド、
わざわざ連れ戻しに来たりはしません」

「僕がここに来たのは理由があってだな」

「理由?こんなところに来る理由があるとでもいうんですか?ご冗談を」

「あ、あのー・・・」

「なんだ、小娘。まさかお前がルト様をたぶらかした訳じゃなかろうな」

「は、はい?」

「そもそもルト様がこんな店を目当てに立ち寄ったとでも思っているのか、
一庶民の分際で思い上がるにもほどがある」

「え、ええ・・・・」

「失礼だぞ、モンド。それに僕はこの匂いに惹かれてこの店に来たんだ、
食してからじゃなければ、動く気はない」

「ルト様、なんてことを!
解っているんですか、お父上が知ったらただじゃ済まないですよ。
たかだか菓子を食べに店に寄っただなんて」

「そんなことは関係ない。
そもそも遅足の馬を手配したのはモンド、お前じゃないか」

「ぐぬぬ。
小娘!これ以上この私に時間を取らせるのならば、
この店ごと潰すことなど簡単なのだからな。
今から提示する時間内に王子が望む菓子を差し出せ!!!」

「そ、そんな無茶ぶり!」


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ミニゲーム
モンドと対決。

クリア条件:
タイムアタック「 」秒以内

ショートケーキをそろえる事

ミニゲーム終了:

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「な、なんとか出来た」

「ふむ。なかなかやるじゃないか。
今回は見逃してやろう」

「あ、ありがとうございます。
・・・ルトさん、どうですか?」

「・・・・・・」

「あの・・・?」

「この味、懐かしい」

「え」

「思い出のケーキにそっくりだ」

「ルトさんの、思い出の?」

「ああ、うん。
さっきの話のね」

「その昔、両親がパーティに招待されて、僕もここに来たんだ。
だけど僕は、どうにも人見知りでね。驚いちゃって。
その場を抜けて、逃げたんだ。
そしたら、歩いているうちに美味しそうな匂いがして。
ちょうど、この辺りだった」

「それって」

「思い出の洋菓子店だよ。
だから、もう一度食べてみたいと思ってた」

「・・・」

「けれど、あれからもう、大分経っているから。
流石にもう、あの店は無いんじゃないかって諦めてたんだ。
だけど、どうしても気になって抜け出してみたら、
いい匂いがして」


「ルトさん・・・」

「有難う、君のおかげだよ。
また食べさせてくれるかな」

「はい、喜んでっ」

「あーゴホンゴホン。
ルト様、そろそろ時間の方が」

「解ってる。悪いね、つき合わせて」

「悪いと思ってるなら、早くその足で向かってください。
お咎めを受けるのは私だけなんですから」

「それじゃあ、また」


カランカラーン


「・・・いっちゃったね」

「わんっ」

「思い出の味、かぁ、
きっと、ここにきたんだね。
父さんと母さんの居たラ・フィルレに。

・・・また会えるかな」

「くーん?」




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